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スピーキングバルブ

スピーキングバルブの写真

スピーキングバルブ(Ventilator Speaking Valve)は、気管切開患者が人工呼吸器を装着したまま、肉声で発声、会話するための一方弁です。 口径15mm、直径22mmという小さなものですが、気管切開患者のコミュニケーション・ツールとして、その存在は大きいと言えます。このスピーキングバルブを発明したのは、自らも筋ジストロフィー患者であるデビッド・A・ミューア氏(1961-1990)。

スピーキングバルブによる発声のしくみ

呼吸モードの図

通常、人工呼吸器による呼吸は気管カニューレを通してのみ行なわれます。気管カニューレがカフによって気道に固定されている場合、声帯を通る空気が遮断されるために発声ができません。

発声モードの図

カフエアーを抜いた気管カニューレと人工呼吸器の回路の間に、スピーキングバルブをはさみこむことで、呼気が声帯を通って口腔内に送られるため、発声ができるようになるのです。

購入方法

スピーキングバルブは使用方法を誤ると生命にもかかわるため、主治医に相談して、病院で手配してもらった方が良いでしょう。2個セットで15,000円。消耗品で、保険はききません。

スピーキングバルブ装着の実際(土屋竜一の場合)

シンガーソングライターとして活躍していた土屋竜一。しかし呼吸不全によって歌手生命を絶たれることになります。主治医に気管切開を勧められましたが、声を失うことへの抵抗から長らく決心がつきませんでした。そんな折、旧知のある医師からスピーキングバルブの存在を教えてもらったのです。気管切開をしても喋ることができる!土屋竜一は気管切開の手術を受け、回復を待って、スピーキングバルブの訓練に入ったのです。

スピーキングバルブを装着するにあたり、主治医ら医療スタッフがプランを捻出。それを手がかりに実際に装着したのですが、呼吸が苦しくなるばかりで、会話といえるような発声にはなりませんでした。しかし試行錯誤を繰り返すうち、少しずつ力強い発声ができるようになっていきました。あとは如何に自然かつ流暢に言葉をつなげていくかが課題でした。そこからは土屋竜一独りの闘いとなったのです。

毎日スピーキングバルブを装着しているうちに、度胸とコツのようなものが身につき、一年後には一時間の講演会を開くまでに飛躍していました。以後、土屋竜一はスピーキングバルブを人生の友として、コミュニケーションや講演に役立てています。

スピーキングバルブの使用環境(土屋竜一の場合)

気管カニューレ:高研 ネオブレスダブルサクション (高研
人工呼吸器:LTV950 (フィリップス・レスピロニクス

呼吸器の設定(LTV950/土屋竜一の場合)

通常呼吸時
最低一回換気量:400ml、分時換気量下限:0.1、 呼吸回数:15回/分

スピーキングバルブ会話時
最低一回換気量:500ml、分時換気量下限:0、呼吸回数:10回/分

スピーキングバルブ装着の手順

  1. カフエアーを完全に抜く
  2. スピーキングバルブを装着
  3. 呼吸器の設定
  4. 会話
  5. スピーキングバルブをはずす
  6. 呼吸器の設定
  7. カフエアーを入れる

スピーキングバルブの問題点

作為的な空気の漏れ(リーク)を利用するため、スピーキングバルブ装着時には、痰の量が増え、頻脈や低酸素が起きるなど呼吸機能が低下します。このため土屋竜一は、長時間の使用を避け、一回の装着につき60分程度を目安としています。

痰の分泌が多い時や体調不良時の装着は避け、また装着後に不調を覚えたり、不快感があるような場合も、すぐに中止すべきと考えられています。

また、気管切開孔が大きいとリークが生じます。土屋竜一は改善方法として、気管カニューレと気管切開孔とのすき間を、Yガーゼの上から 医療用布テープで目張りしています。目張りのテープについては、アメリカでは専用のものが製品化されている模様ですが、確認はとれていません。